銀行からお金を借りる「ツボ」を知っていますか――資金ニーズの種類と、銀行が見ていること
- 仁 木村
- 6月8日
- 読了時間: 7分
はじめに
「銀行はお金を貸したい」というのは正しい。しかし「なんでも貸してくれる」は大きな誤解です。
銀行の担当者が融資を持ち帰ると、行内では申請書を書いて稟議を通す作業が待っています。担当者は自分の上司を、上司はさらにその上を納得させなければなりません。「社長が困っていると言っていた」では稟議は通りません。資金使途、返済期間、返済方法、金利の根拠、業績の現状、業界環境、返済計画の妥当性――これらをデータと整合性をもって説明できる書類が必要です。
ということは、会社側が何をどう説明すれば銀行が動きやすいかを理解しておくことが、資金調達を円滑にする最大のポイントになります。
ここがすれ違うと、会社も銀行も余計な時間と労力を使い、それでも融資が思うように進まない。逆に、ここを押さえていると話が早く、銀行からの信用も積み上がります。
1.「借入」とひと言で言っても、中身はまったく違う
資金ニーズには種類があります。それぞれ、銀行が考える適切な期間・返済方法・評価の観点が異なります。
① 経常運転資金
売上債権(売掛金)と棚卸資産の合計から買入債務(買掛金)を差し引いた金額が、事業を回すために常に必要な資金です。これは売上水準が維持される限り返済が不要な「永久に必要な資金」とも言えます。短期の融資を継続して借り換える「短期継続融資」として対応するのが本来の姿です。
② 増加運転資金
売上が増えると、それに伴い売掛金や棚卸資産も増加します。その増加分を賄う資金です。「売上が伸びているのにお金が足りない」という状態がこれです。事業の成長に伴う資金ニーズであり、銀行にとっても前向きな融資案件になりやすい。ただし、なぜ売上が増えているのか(新規顧客、新製品、一時的な需要増なのか)を説明できることが重要です。
③ 季節資金(仕入資金)
特定の季節に集中して仕入や製造が発生する業種に必要な資金です。繊維・アパレルであれば、春夏物・秋冬物の生地や原材料を販売シーズンより数カ月前にまとめて仕入れる必要があります。売上が立つ前に大きな支出が先行するため、一時的に資金が不足する構造です。
需要の波が業界慣行として明確に存在し、毎年繰り返されるニーズです。銀行もその業種の季節サイクルを理解していれば判断しやすい案件ですが、初めて取引する銀行には「この業界では売上の何カ月前に仕入れが集中するか」を具体的に説明することが重要です。
④ 設備投資資金
機械・設備・システム・建物などへの投資です。投資金額と耐用年数に見合った返済期間を設定するのが基本。「何年で何を生み出し、どのように返済するか」の事業計画が求められます。銀行は投資の合理性と収益貢献を確認します。
⑤ 賞与資金・納税資金
年に1〜2回のまとまった支出に備える、季節性の資金ニーズです。実務上は賞与と納税は時期が異なるため、それぞれのタイミングで個別に申請・実行されるのが一般的です。支払い時期が明確で返済も数カ月以内の短期融資として対応しやすく、銀行にとって比較的判断しやすい案件です。ただし、手元にまったく余裕がなく毎回借入に頼らざるを得ない状態は、キャッシュポジションの問題として銀行の目に映ることがあります。
⑥ 赤字資金
業績悪化による手元資金の不足を補う融資です。銀行にとって最も慎重に判断する種類の資金です。なぜ赤字になっているのか、それは一時的なものか構造的なものか、再建の見通しはあるか――これらを説得力を持って説明できなければ、融資は難しい。「とにかく資金が足りない」という話では動きません。
2.銀行が稟議で書かなければならないこと
銀行の担当者は、融資の申し込みを受けると社内で稟議書を書きます。その稟議書には、少なくとも以下の内容を書かなければなりません。
■ 資金使途:何に使うのか
■ 必要金額の根拠:なぜその金額が必要か
■ 返済期間と返済方法:いつまでに、どのように返すのか
■ 返済財源:何をもとに返済するのか(営業キャッシュフロー、資産売却など)
■ 企業の業績と財務状況:現状の損益・財政状態
■ 業界の状況と当社の位置づけ:市場環境と競争優位
■ 返済計画の妥当性:計画は現実的か、前回の計画との対比
これらが整合的に説明できる資料があれば、担当者は稟議を書きやすく、上司も承認しやすい。逆に、説明がバラバラだったり根拠が曖昧だったりすると、担当者が会社に質問を重ねるか、稟議が通らないかのどちらかになります。
銀行担当者が稟議を書きやすい情報を整理して渡すことが、資金調達のスピードと精度を上げる最大のポイントです。
3.銀行が最も気にするのは「返済できるか」という一点
融資において銀行が最終的に判断するのは「貸したお金が返ってくるか」です。それだけです。
そのために確認するのが、以下の3つです。
① キャッシュフロー 本業で稼げているか。営業キャッシュフローが安定して黒字であれば、最も強い返済財源です。損益は黒字でもキャッシュフローが細い場合は注意が必要です。
② 担保・保証 不動産担保や代表者保証があれば、万一の際の回収手段として機能します。ただし、これはあくまで補完的なものです。金融庁は2014年頃から「事業性評価に基づく融資」を金融機関に強く求めてきました。担保・保証に依存した融資から脱却し、企業の事業内容や将来性を正面から評価して融資判断を行うべきという方向性です。この流れはメガバンクや大手地銀を中心に浸透しつつある一方、地域の信用金庫・信用組合では担保・保証を重視する傾向が依然として残っており、金融機関の規模や方針によって温度差があります。いずれにしても、担保があれば貸してくれるという発想だけに頼ることには限界があります。
③ 経営者の資質と有言実行の実績 計画を立て、それを実行しているかどうか。前回の資金調達時に「こういう使い方をして、こう返済する」と言ったことが実現されているか。ここが銀行との信頼関係の土台です。
特に③は数字では見えませんが、担当者の目には映っています。「あの社長は言ったことをやる人だ」という評価が積み上がると、次の融資交渉がぐっとスムーズになります。
4.「資金が必要になってから動く」が最も危ない
資金繰りで会社が追い詰められるパターンの多くは、「本当に困ってから銀行に行く」ことで起きます。
銀行は、余裕のある会社には喜んで貸します。しかし、本当に困っている会社には慎重になります。経営が苦しい状態での融資は、銀行にとってもリスクが高いからです。
資金調達の鉄則は「必要になる前に動く」です。
半年後・1年後の資金繰りを見越して、余裕があるうちに銀行と話す。決算書が出たタイミングで業績の説明に行く。事業計画を定期的に共有する。こうした積み重ねが、いざというときに動いてもらえる関係をつくります。
5.資料提供と説明の質が、借入のしやすさを決める
銀行との交渉において、会社側が準備すべき資料の代表例を挙げます。
■ 直近3期分の決算書(損益計算書・貸借対照表。キャッシュフロー計算書は作成していれば添付する。作成義務のない中小企業では、銀行側が損益計算書・貸借対照表から簡易的に推計するため必須ではない。ただし、営業活動・投資活動・財務活動の3区分でキャッシュの流れを把握できるキャッシュフロー計算書は、自社の経営理解を深める観点からも作成しておくことをお勧めする)
■ 月次の試算表(直近の業績動向を示すため)
■ 資金繰り表(今後6カ月〜1年の資金の流れ)
■ 事業計画書(設備投資・増加運転資金の場合は特に重要)
■ 資金使途の明細(何に、いくら使うか)
これらを事前に整えておくと、銀行担当者は稟議を書きやすくなります。また、こうした資料をきちんと用意できる会社は、それだけで「管理ができている会社」という印象を銀行に与えます。
資料の質は、信用の質に直結します。
おわりに
「借入のツボ」とは特別なテクニックではありません。資金ニーズの性質を正しく理解し、銀行が稟議を通せるだけの材料を整えて、有言実行を積み重ねる。それだけです。
しかし、これが実践できている会社は意外と少ない。多くの場合、資金調達は「困ったときに急いで動く」ものになっています。そのたびに会社も銀行も余計な労力をかけ、条件も思うように整わない。
資金調達を経営の一部として日常的に管理する習慣をつけると、銀行との関係は大きく変わります。銀行は「この会社に貸したい」と思う会社に積極的に動きます。その状態をつくることが、長期的な資金調達力の源泉です。
この記事を読んで、「一度、自社の資金調達の進め方を整理してみよう」と思っていただけたなら幸いです。自社で取り組める方はぜひ実践してください。「状況を整理したい」「銀行との交渉の準備を一緒に進めたい」という場合は、お声がけください。
木村公認会計士事務所 木村 仁

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