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木村公認会計士事務所

赤字子会社への低いコミッションと期末調整金――限定的リスク事業者とベリー比による検証

  • 執筆者の写真: 仁 木村
    仁 木村
  • 2 日前
  • 読了時間: 7分

はじめに

前回は、駐在員事務所が事業の進展とともに実質的な役務提供拠点に変質し、PE認定リスクが顕在化したケースをご紹介しました。第2回のテーマは、その次の段階でよく直面する論点です。輸出が本格化し、現地に子会社を設立して業務委託からコミッション取引に移行した後、その子会社が恒常的に赤字だったケースをお伝えします。

なお、本シリーズは実際の複数の案件で見えてきたパターンを一般化・匿名化してご紹介するものであり、個別具体的な税務判断は登録税理士・国際税務専門家との連携を前提としています。


1.背景:限定的リスクのコミッションエージェントという位置づけ

現地に設立した子会社を、本社の販売活動を支援する「コミッションエージェント」として位置づけ、その対価としてコミッション料率を設定しました。コミッションエージェントは、自らが在庫リスクや市場リスクを大きく負う立場ではなく、あくまで限定的な機能とリスクの範囲で販売支援業務を行う存在として設計するのが通常です。移転価格税制上も、独立企業間価格を検証する際には、こうした限定的リスク事業者としての性格を前提に、コミッション料率の水準を組み立てることになります。


2.問題の顕在化:恒常的な赤字というシグナル

ところが、このコミッション料率を設定した後、当該子会社は恒常的に赤字を計上する状態が続きました。当該子会社は在庫を保有せず、在庫リスクを負う立場にはなかったため、限定的リスク事業者としての性格そのものは崩れていませんでした。その一方で、コミッション料率の設定水準は、当初から低めに置かれていました。背景には、この事業の売上げが年によって振れが大きく安定していなかったことに加え、日本側の事業自体も長く赤字が続いていたという事情がありました。売上げが読みにくい以上、期中の料率は保守的に低く抑えておき、期末の調整金でまとめて帳尻を合わせればよい、という考え方が、社内で既定路線のようになっていたのです。

しかし、事業が軌道に乗り、現地の業務量が増えていくにつれて、この運用は別の問題を伴うようになりました。仕事が忙しくなっているにもかかわらず、それでも利益が出ない状態が続くのはおかしいのではないか、という声が現地の責任者から聞こえてくるようになったのです。期末に数字の帳尻さえ合っていればよいという税務上の理屈は、現地で日々の業務に当たっているスタッフの実感とは、必ずしも一致しません。


3.技術的な分析:ベリー比による検証

日本の移転価格税制上、独立企業間価格の算定方法にはいくつかの種類があり、平成23年度改正以降、これらのうち「最も適切な方法」を選択するルール(ベスト・メソッド・ルール)が採用されています。現地子会社が本社の販売支援等の役務提供機能のみを担うような限定的リスク事業者の場合、その対価はTNMM法(取引単位営業利益法)により検証されることが多く、その中でも「ベリー比」(売上総利益を営業費用で除した比率)が指標として用いられる場面があります。

限定的な機能・リスクしか負わない事業者は、TNMM上、市場環境が多少変動しても、比較的安定した利益水準を確保できるように設計されるのが通常の考え方です。本来であれば、市場の好不調にかかわらず、一定のレンジに収まる利益(あるいは損失を出さない水準)を確保できるはずの立場にあるにもかかわらず、恒常的な赤字が続いているというのは、次のいずれかの可能性を示すシグナルと考えられます。一つは、コミッション料率そのものの設定水準が低すぎるという、算定方法上のミスです。もう一つは、契約上は限定的リスクの位置づけであるにもかかわらず、実際には市場リスクや在庫リスクなど、本来は本社側が負うべきリスクを子会社が実質的に負担してしまっているという、機能・リスク分析と実態の乖離です。いずれにしても、「限定的リスク事業者なのに赤字が続く」という状態そのものが、税務調査において疑義を招きやすい兆候になります。

今回のケースでは、当該子会社が在庫を保有しない体制であったことから、二つ目の可能性、すなわち本来本社側が負うべきリスクを子会社側が実質的に負担してしまっているという機能・リスク分析上の乖離は、当てはまりませんでした。原因は、一つ目の、コミッション料率の設定水準そのものが低すぎたという点に絞られます。売上げの振れ幅が大きく、日本側の業績も不安定な中で、「期中は保守的な料率にしておき、期末にまとめて調整すればよい」というスタンスが、結果として期中を通じた赤字を放置する運用になっていたわけです。


4.是正と教訓:期末調整金ではなく、料率そのものの見直しへ

このケースで実際に提案した是正策は、期末の調整金によってその年だけ帳尻を合わせることではありませんでした。比較対象企業のベリー比のレンジを改めて確認し、そのレンジに収まる水準までコミッション料率そのものを引き上げるという、料率設定の見直しを日本側の事業主(親会社)に提案しました。

期末調整金(true-up)は、その期の実績が独立企業間価格レンジから外れた場合の事後的な是正手段として、実務上広く使われている手法です。しかし、赤字の原因が料率設定の水準そのものが構造的に低いことにある場合、その差額を調整金で埋め合わせる運用を毎期続けても、根本的な解決にはなりません。むしろ、期中を通じて赤字が続き、期末にまとめて帳尻を合わせるというサイクルが繰り返され、第2節でお伝えしたような現地の士気低下という副作用も、そのたびに招くことになります。

比較対象企業のベリー比のレンジは、料率設定の妥当性を客観的に説明できる唯一の拠り所です。このレンジを基準に料率を適正化すれば、期中を通じて利益がレンジ内に収まるようになり、期末に大きな調整金を計上する必要性そのものが小さくなります。これは、移転価格税制上の説明のしやすさという点でも、現地マネジメントの観点でも、より根本的な解決策だといえます。

なお、料率を見直したとしても、事業環境の変化によって実績が独立企業間価格レンジから外れることは起こり得ます。そうした場合に備えて期末調整金という手段自体を否定する必要はありませんが、その算定方式・タイミング・適用条件は、事後的に決めるのではなく、あらかじめ移転価格ポリシーやグループ間契約書等で明文化しておくべきです。そうでなければ、事後的な利益操作であるかのように見えてしまい、税務当局からの説明要求に対して合理的な根拠を示しにくくなります。

また、輸入取引を伴う場合には、期末の調整金による事後的な対価の増減額が、関税評価額の見直し(更正の請求・修正申告等)にも波及し得る点にも注意が必要です。料率自体をあらかじめ適正な水準に設定しておくことは、こうした期末調整に伴う関税上の追加対応を減らすという意味でも、実務上のメリットがあります。


おわりに

限定的リスク事業者として設計したはずの海外子会社が恒常的に赤字を続ける状態は、それ自体が「制度上のたてつけ(契約・移転価格ポリシー)と実態がズレているのではないか」という兆候として受け止めるべきものだと感じています。ベリー比などの指標を定期的にモニタリングし、赤字が一時的なものか、構造的なものかを見極めることが重要です。構造的な要因であれば、期末調整金でその場をしのぐのではなく、料率設定そのものを見直すことが、税務上の説明のしやすさと現地マネジメントの両面から、より根本的な解決になります。

なお、調整金の算定方式や独立企業間価格レンジの設定は、業種・取引形態・比較対象企業の選定によって個別に検討すべき事項です。実際の対応にあたっては、移転価格税制に詳しい税理士・専門家との連携をお勧めします。

次回は、これとは別のケースとして、コミッションとバイセルが併存する海外子会社が事業拡大に伴って黒字化したことをきっかけに、調整金の支払いの向きそのものが逆転し、思わぬ関税上の論点に直面したケースをご紹介します。


木村公認会計士事務所 木村 仁

 
 
 

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