中間持株会社化によるグループ再編――新設分割・CMS・経営指導料で組み立てる業務設計
- 仁 木村
- 7月13日
- 読了時間: 11分
はじめに
ブログ8では、第三者割当増資によって支配権を取得する買収スキームについてお伝えしました。今回は、その続きの話です。第三者割当増資によって子会社化した投資先企業(以下「A社」)と、A社が増資資金の一部を使ってTOBで買収した会社(以下「B社」)について、その後どのような組織形態を組み、どのような業務設計を行ったかをご紹介します。
A社とB社は、いずれも長く深刻な赤字が続いていた会社でしたが、その内容は異なります。A社は、その分野では名の知れた会社で、過去に蓄積してきた内部留保を食いつぶしながら存続してきたという経緯があり、借入自体は少額で、銀行から人が送り込まれているわけでもありませんでした。一方のB社は、借入金利が市場水準より高く、かつては銀行出身の社長が来ており、投資した当時もコーポレート系の役員が派遣されている状態でした。同じ「長期の赤字会社」でも、赤字の質や原因が異なる2社を、増資後どのようにグループとして機能させるかが、次の検討課題になりました。
1.なぜ「中間持株会社」という形態を選んだか
増資によってA社の支配権を取得した時点では、投資企業(親会社)の下に、A社がそのままぶら下がる形になります。ここからグループとしての体制を組むにあたり、A社を親会社の一事業部門として直接取り込む形もあり得ましたし、A社を持株会社化して、その下に既存子会社を並べる形もあり得ました。
今回採用したのは、A社を新設分割し、もとのA社を持株会社、新設した会社に事業そのものを担わせるという形でした(具体的なスキームは次節で説明します)。この形態を選んだ理由は、大きく三つです。
一つは、人事制度の統一に時間がかかるという事情です。A社、B社、それぞれがもともと持っていた国内・海外子会社とでは、賃金体系や評価制度、就業規則がそれぞれ異なります。これらを一気に統一しようとすると、混乱と時間的なコストが大きくなります。独立した事業会社として運営しながら、段階的に制度を近づけていく方が現実的でした。
もう一つは、A社・B社それぞれの状況・課題が異なるなかで、早期に意思決定を行う必要があったという事情です。前述のとおり、A社は知名度や過去の蓄積を食いつぶしながらの赤字、B社は借入依存度が高く銀行出身の社長が来るほどの赤字と、赤字の質・原因がそれぞれ違います。これらを一つの組織に混ぜ込んでしまうと、意思決定のたびに利害調整が必要になり、スピード感が失われます。独立した事業形態を維持したまま、それぞれの課題に応じた意思決定を素早く行えるようにすることを優先しました。
三つ目は、グループとしてさらなるM&Aを推進する余地があったという事情です。このグループの事業領域そのものは有望でしたが、製造工程ごとに会社が分かれ、個々の規模が小さいという特徴があり、海外企業から見ても狙われやすい状態にありました。裏を返せば、同じ工程を担う会社を取り込むM&Aの機会が、まだ多く見込める領域だったということです。中間持株会社という形態を採れば、新たに買収した会社を、既存の事業会社と並ぶ子会社としてそのまま組み込めます。将来のM&Aを機動的に進める受け皿としての機能も、この形態を選んだ理由のひとつでした。
合併によって労働条件・賃金体系の異なる会社を一つにまとめようとすると、統合の準備に相当な期間を要し、人にまつわる問題が合併後も長く残ることは、実務上よく指摘されるところです。持株会社制であれば、子会社は法的に独立した存在として労働条件や評価制度をそのまま維持できるため、こうした人にまつわる調整を急がずに進められます。今回、新設分割によって中間持株会社という形をとったのも、この発想に沿ったものです。
2.新設分割によるグループ化のスキーム
具体的なスキームは次のとおりです。
投資企業(親会社)が第三者割当増資を引き受けてA社を子会社化したあと、A社は、増資によって得た資金の一部を使い、別の上場企業であるB社をTOBによって買収し、子会社化しました。B社は、A社の子会社という位置づけになるため、投資企業からすると「孫会社」にあたります。また、A社はこれ以前から、国内・海外に自前の子会社を保有していました。これらも、投資企業からすれば孫会社です。
ここまでの時点で、A社の傘下には、もともとの自社事業、もともと保有していた国内・海外子会社、そしてB社という3つの塊が並んでいる状態でした。
ここで、A社自身を新設分割し、A社が行っていた事業そのものを、新設する会社(以下「A’社」)に承継させました。新設分割を行うと、もとの会社(分割会社、ここではA社)は、新設会社(設立会社、A’社)の株式を保有する立場になります。事業そのものはA’社に移り、A社には子会社株式と、もともと事業に使っていた不動産が残ります。これにより、A社が実質的に持株会社、すなわち中間持株会社になります。
この結果、A’社、B社、もともとの国内・海外子会社の3つは、いずれもA社(中間持株会社)の子会社として並ぶ「兄弟会社」の関係になります。投資企業から見ると、A社が子会社、A’社・B社・既存の国内海外子会社がいずれも孫会社という位置づけです。グループ全体の構造としては、投資企業(親会社)―A社(中間持株会社)―A’社・B社・既存子会社(事業子会社、孫会社)という三層構造になりました。
下の図は、この構造を簡略化したイメージです。

中間持株会社化のスキーム(イメージ)
なお、新設分割は会社法上の組織再編行為であり、債権者保護手続きや労働契約の承継に関する手続き(労働契約承継法)、税務上の適格分割の要件(完全支配関係の継続など)といった検討事項が伴います。また、B社のTOBによる買収も、別途、金融商品取引法上の手続き(公開買付規制)を要する話です。実行にあたっては、会社法・金融商品取引法・労働法・税務の各面から専門家の確認を取ることが前提になります。
3.中間持株会社に残すもの:子会社株式と不動産
新設分割後、中間持株会社(もとのA社)に残るのは、子会社株式と不動産です。事業そのものはA’社に移っているため、中間持株会社自身は事業活動を行いません。
不動産を中間持株会社に残した理由は、実務的なものです。まず、不動産をA’社に移すと、不動産登記の名義変更や関連する諸手続きが発生し、手間とコストがかかります。新設分割にあたって、わざわざその煩雑さを引き受ける必要はないと判断しました。また、A’社・B社をはじめ傘下の事業会社は赤字からの立て直し中であり、当面は配当をあまり期待できません。そうした状況では、不動産を中間持株会社に残し、賃貸収入という形で独立した収入源を持たせておくほうが、中間持株会社自身の収入確保の観点からも合理的でした。子会社の事業用不動産を親会社・持株会社側が保有して賃貸する形自体は、グループ経営において一般的によく見られるものでもあります。
4.中間持株会社の収入構造
事業活動を行わない中間持株会社が、組織として存続し、グループの中核としての機能を果たし続けるためには、独立した収入が必要です。今回のケースでは、次の4種類の収入を組み合わせました。
① 子会社からの配当金
事業子会社(A’社、B社、既存の国内・海外子会社)の業績に応じて、配当金を受け取ります。グループ全体の収益が、最終的に中間持株会社に集約される仕組みです。
② 不動産の賃貸収入
中間持株会社が保有する不動産を、事業会社であるA’社に賃貸し、賃貸料収入を得ます。配当金が業績に応じて変動するのに対し、賃貸収入は契約に基づく安定的な収入として機能します。
③ 経営指導料
中間持株会社から事業子会社に対して、経営指導(経営管理、各種サポート業務など)を行い、その対価として経営指導料を受け取ります。中間持株会社が、単に株式を保有するだけの器ではなく、グループ運営の実務を担う組織であることを反映した収入です。
ただし、経営指導料は「対価に見合う実体のある役務提供」があることが前提です。実際に行っている経営指導の内容・工数と、受け取る対価の水準が対応していなければ、税務上、実質的な利益移転(寄附金)と見られるリスクが残ります。今回のケースでも、どのような業務を、どの程度の工数で提供しているかを整理したうえで、対価の水準を検討しました。
④ CMSによる金融収入
中間持株会社に新たに設置したCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を通じた、グループ内の資金の貸付・調達による金融収入です。詳しくは次節で触れます。
5.CMSの設計:借入の圧縮と、メインバンクとの関係の引き継ぎ
CMSの原資としては、まず第三者割当増資で得た資金の一部がありました。前述のとおり、A社自体は借入が少額でしたが、B社は借入金利が市場水準より高くなっていたため、この増資資金の一部をB社の高金利借入の返済(借入圧縮)に充てました。これにより、グループ全体で見たときの金利負担を軽くすることができました。
これと併せて、中間持株会社に新たにCMSを設置しました。CMSの資金の出し手は、A社・B社それぞれがもともと取引していたメインバンクです。投資企業(親会社)の信用力を背景に、各メインバンクには、増資前の条件ではなく、投資企業に準じた条件で中間持株会社へCMS資金として貸付を行う形に切り替えてもらいました。
この設計には、二つの意味があります。一つは、増資前から取引のあったメインバンクとの関係を、形を変えて維持できたことです。借入先を一新するのではなく、既存のメインバンクに、より信用力の高い中間持株会社向けの貸付として引き続き関わってもらうことで、関係の継続性を保ちました。もう一つは、グループ内の資金を中間持株会社に集約し、各事業子会社の資金繰りをCMSを通じて管理できるようになったことです。資金効率の向上と、グループ全体のガバナンス強化を、同時に図る設計でした。
6.グループ統治の実行
中間持株会社という形態を整えたあと、実際のグループ運営は次のような取り組みから始まりました。
親会社からは、事業会社(A’社・B社)に対して、社長とコーポレート系の役員を送り込みました。B社についてはとくに、かつて銀行出身の社長が来ていた状態から、親会社主導の経営体制に切り替える意味合いもありました。そのうえで、会計方針の統一、各種規程類の統一、意思決定ルールの統一と意思決定ルートの再設定、それぞれの内部会議体の整理・圧縮、海外子会社の統一・整理、国内子会社の合併、赤字原因の解明と解決策の策定・実行、グループ会社としてのシナジー効果の実現といった取り組みが、並行して走り始めました。
中間持株会社(A社)自体の役員構成にも工夫を加えました。取締役の過半数は親会社からの出向者とし、グループとしての意思決定権を確保しました。残りの役員には、A’社・B社それぞれの元の経営者を起用し、事業会社の経営者自身に、中間持株会社の役員としての責任も併せて担ってもらう形にしました。持株会社制は、子会社の自主性を尊重するがゆえに、放っておくとグループとしての求心力(遠心力に対するグリップ)が弱まりやすい面があります。事業会社の経営者を中間持株会社の役員に取り込むことで、事業運営の実情をグループの意思決定に反映させつつ、各経営者にグループ全体への責任意識を持たせる狙いがありました。
ブログ5(中南米合弁会社の粉飾事例)でも触れましたが、こうした立て直しの場面では、経理財務が分かる人材を相応の立場で送り込むことが、異変の早期察知やガバナンスの実効性を左右します。今回のケースでも、コーポレート人材を一定の立場で送り込んだことと、経営者(社長)を送り込んだことが、いずれもうまく機能しました。細かい部分では様々な課題がありましたが、A社・B社とも、おおむね2年程度で黒字化を実現しています。
おわりに
赤字会社を増資によって投資企業の傘下に取り込んだあと、それをどう組織として機能させるかは、買収そのものとは別の、もう一段の設計が必要になります。今回のケースでは、新設分割によって事業を切り出し、もとの会社を中間持株会社として残すことで、人事制度統一にかかる時間、A社・B社それぞれが抱える状況・課題の違い、そして将来のM&Aの受け皿としての機動性という3つの観点から、独立した意思決定のスピードを確保しました。
中間持株会社には、子会社株式と不動産を残し、配当金・不動産賃貸収入・経営指導料・CMSによる金融収入という複数の収入源を持たせることで、グループの中核としての機能と財務基盤を両立させています。なお、子会社の自主性を尊重する持株会社制には、グループ経営の求心力が弱まりやすいという一般的な傾向もあります。今回のケースでは、親会社からの経営者・コーポレート人材の送り込み、規程・意思決定ルールの統一に加え、中間持株会社の役員を親会社出向者過半数とA’社・B社の元経営者で構成することによって、この遠心力に対するグリップを確保しています。CMSについては、第三者割当増資の資金の一部でB社の高金利借入を圧縮したうえで、投資企業の信用力を背景に、各メインバンクから投資企業に準じた条件での貸付という形に切り替えてもらいました。
なお、新設分割による組織再編には、会社法上の手続き(債権者保護手続きなど)、労働契約承継法上の手続き、税務上の適格分割の要件といった検討事項が伴います。この記事でご紹介した設計は、あくまで一つのケースにおける当時の判断であり、実際に同様のスキームを検討される際は、会社法・労働法・税務それぞれの面から専門家の確認を取りながら進めていただくことをお勧めします。
この記事を読んで「自社グループの再編にも参考になるかもしれない」と思っていただけたなら、それが一番です。もし「具体的な組織設計を一緒に検討してほしい」という状況であれば、そのときはお声がけください。伴走する形でお手伝いします。
木村公認会計士事務所 木村 仁
コメント