赤字会社の原因と対応の一例――「自社製造は高い」という誤解が会社を壊す
- 仁 木村
- 5月21日
- 読了時間: 5分
はじめに
ある製造業の会社に関わることになった際、こんな言葉を幹部から聞きました。
「うちで作ると高い。ファブレスの時代だから、仕事はどんどん外に出している」
一見、時代の流れに合った合理的な判断のように聞こえます。しかし、この判断が誤りどころか、赤字を深刻化させる悪循環の引き金になっていました。同様の構図は、製造業を持つ中小企業にもあてはまる点があるのではないでしょうか。今回はその実態と、その時の対処法をお伝えします。
1.現場で何が起きていたか
その会社の損益計算書には、「工場損益」という項目がありました。直接原価計算方式の損益計算書です。
毎月、そこに多額の損失が計上されていました。
これは工場で製品を作る際の予定原価と実際原価の差、すなわち原価差異です。工場損益の損失は「予定よりも高くついている」ことを示していました。
なぜそうなるのか。問題は製造間接費の配賦率の決め方にありました。
2.配賦率の悪循環――操業度が下がるほど高くなる罠
製造間接費(工場の減価償却費、間接部門の人件費、電気代・家賃など)は、製品1個あたりに「配賦」します。配賦率は一般的に前年の実績操業度をもとに決められていました。
ここに罠があります。
【悪循環の構造】
ステップ | 起きていること |
① | 「自社工場は高い」と判断し、外注・外加工を増やす |
② | 自社工場の操業度(稼働量)が下がる |
③ | 翌年の配賦率が上がる(同じ固定費を少ない数量で割るため) |
④ | さらに「自社工場は高い」と見えるようになる |
⑤ | また外注を増やす → ①に戻る |
外注に出すたびに、自社工場のコストが計算上さらに高く見えるようになり、また外注に出す。この悪循環が、静かに会社を蝕んでいました。
3.「外注のほうが安い」は本当か――消えない固定費の問題
外注単価と自社製造コストを比べるとき、多くの経営者は原価計算上の数字を使います。しかしここに重大な落とし穴があります。
外注に切り替えても、自社の固定費はすぐには消えません。
・ 設備の減価償却費はリース期間・耐用年数が終わるまで発生し続ける
・ 工場の家賃・光熱費も契約期間中は継続する
・ そして最も難しいのが人件費です
4.放置された製造間接費の人員
この会社では、過去に赤字の際、人員整理を行ったことがありました。そのときの痛みが経営陣・現場双方に深く残っており、「これ以上の削減は難しい」という空気がありました。
結果として、操業度が下がっても間接部門の人員はそのまま。外注に仕事を出せば出すほど、工場内の間接人員が手持ち無沙汰になっていく。しかし削減もできない。
手詰まりの放置状態です。
固定費としての人件費は変わらないのに、それを回収すべき製造数量だけが減っていく。工場損益の赤字はこうして膨らみ続けました。
5.本当の問題はどこにあったか
「自社製造が高い」という表面的な問題の奥に、実際には以下の3つの構造的問題がありました。
① 配賦率の設定方法の問題
前年実績操業度をベースにした配賦率は、操業度が下がると自動的に上がります。これは「コストが高くなった」のではなく「計算上そう見えるようになった」だけです。
② 固定費と変動費の混同
外注切り替えの判断をする際、削減できない固定費(設備・人件費)を考慮せずに外注単価と比較していました。正しい比較対象は、外注化によって実際に削減できるコストだけです。
③ 人員構造の硬直化
過去の人員整理の経緯から、製造間接費の人員削減が事実上タブー化していました。固定費の構造を変えられないまま、操業度だけが下がり続けていました。
6.対応の方向性――外注化より先にやるべきこと
この状況への対応として、製造間接費を有効活用する「内製化の推進」が有効でした。止まっていた設備投資を再開し、社内でできることを内製に戻す。売れる製品があり、社内に力のある人材が残っていたことも幸いし、約2年で黒字化を実現することができました。
具体的な取り組みの順序:
Step 1:コスト構造の正確な把握
製造固定費と変動費を明確に区分し、外注化した場合に本当に削減できるコストはどれかを特定する。
Step 2:操業度の回復か、固定費の削減か
操業度が低いことが根本原因なら、内製化による操業度回復が本質的な解決策。それが難しければ固定費そのものの構造改革が必要。
Step 3:配賦率の見直し
前年実績操業度ではなく、正常操業度(実現可能な標準的な操業水準)をベースにした配賦率に変更することで、操業度変動による乱高下を防ぐ。
7.経営者へのメッセージ
「自社製造は高い」という言葉が社内で出たとき、すぐに外注切り替えの議論に進む前に、一度立ち止まって考えてください。
・ その「高さ」は、操業度が下がったせいで計算上そう見えているだけではないか
・ 外注に切り替えても、消えない固定費はどれだけあるか
・ 外注化を進めるほど操業度が下がり、さらにコストが高く見える悪循環に入っていないか
製造業の赤字は、表面的なコスト比較だけでは解決しません。コスト構造の本質を見抜くことが、経営者に求められる視点です。
おわりに
「この記事を読んで『なるほど、ではやってみよう』と思っていただけたなら、それが一番です。自分たちで取り組める方は、参考にして実践してください。もし『理屈はわかるが、社内にやれる人間がいない』『一緒に考えてほしい』という状況であれば、そのときはお声がけください。伴走する形でお手伝いします。」
次回は、内製化推進で黒字化に成功した後に生じた「内製化しすぎ」という新たな問題について、固定費拡大の危うさと外注との適切なバランスをお伝えします。
木村公認会計士事務所 木村 仁

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