固定資産の減損会計――実務で本当に困ること
- 仁 木村
- 6月22日
- 読了時間: 9分
はじめに
固定資産の減損会計は、2005年3月期から上場企業等に強制適用された会計基準です。施行から20年以上が経ちましたが、「基準の概要はわかる」「でも実際にどう運用するのか」という疑問を持つ経理担当者は少なくありません。
この記事は、上場企業の経理部門で実際にあった減損の判定・測定の事例をもとに、実務で本当に困った点を中心にお伝えするものです。
なお、本記事は日本基準(固定資産の減損に係る会計基準・同適用指針)を前提としています。IFRS(国際財務報告基準)では減損損失の戻し入れが認められるなど取扱いが異なる部分があります。IFRSを適用している、または適用を検討している方はご留意ください。
1.減損会計とは何か
減損会計とは、固定資産の収益性が低下した場合に、帳簿価額をその回収可能価額まで切り下げる会計処理です。
ここで最初に強調しておきたいことがあります。
減損処理は、帳簿上の価値を修正するものであり、資産の廃棄や使用停止を意味するものではありません。
実務の現場では「減損した設備はもう使えないのか」「廃棄しなければならないのか」という質問を受けることがあります。答えはノーです。減損後も、その資産を引き続き使用することは何ら問題ありません。翌期以降の減価償却費が減少するという効果はありますが、それは帳簿上の話です。物理的な使用可否とは無関係です。
2.減損の兆候と判定
減損会計の手続きは、①兆候の把握 → ②減損の認識(割引前将来CF<帳簿価額) → ③減損の測定(回収可能価額まで帳簿価額を切り下げ)という流れです。
兆候の判定とは、減損が生じている可能性を示す事象を確認するステップです。主な兆候として以下が挙げられます。
・ 営業活動から生じる損益またはキャッシュフローが継続してマイナス、またはその見込みである
・ 使用範囲や方法について回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたまたは生じる見込み
・ 経営環境の著しい悪化
・ 市場価格の著しい下落
「著しい」の判断が実務では難しいところです。有価証券の減損基準を参考に、「市場価格が帳簿価額の50%を超えて下落した場合は著しい下落」「30〜50%の場合は3年連続などの継続性を加味する」という社内ルールを設けていた企業の事例があります。これはあくまで実務上の目安の一例であり、固定資産の減損会計基準・適用指針に明示されたものではありません。自社の状況に応じた合理的な基準を設け、監査法人と事前に協議しておくことが重要です。遊休状態の資産についても、この考え方を応用して兆候判定の基準を設けることが有効です。
3.グルーピングの設定
実務で最初に頭を悩ませるのが、グルーピングです。
グルーピングとは、「どの資産をまとめて評価するか」を決めることです。基準では、他の資産または資産グループのキャッシュフローから概ね独立したキャッシュフローを生み出す最小単位で行うこととされています。
実務的には、管理会計で使用している管理単位(事業別、セグメント別など)と整合させることで、恣意性を排除しつつ合理的なグルーピングを設定できます。
グルーピングの設定は、細かければ良いというものでもありません。グルーピングの単位と、その単位で策定・管理されている事業計画は一致している必要があります。兆候判定も、使用価値の算定も、その単位の将来キャッシュフローを根拠とするからです。計画がない単位、あるいは経営会議等でオーソライズされた計画がない単位でグルーピングしてしまうと、後から計画を作ったとしても「後付け」と見られかねません。
結果として、実務では管理会計上の管理単位——事業別・個社別など——と合わせた、やや大きめのグルーピングになることも少なくありません。それはやむを得ない判断であり、合理性のある選択です。
ただし、ここに伴うトレードオフを認識しておく必要があります。
グルーピングの単位が大きくなるほど、一度減損が発生した際の影響も大きくなります。
たとえば、事業単位・個社単位でグルーピングを設定した場合、景気の大きな落ち込みがあったときには、本社や事業全体が評価単位となり、多種多様な資産が一括して減損の対象になります。そうなると、「土地・建物の鑑定評価は必要か」「機械装置はどう評価するか」という実務的な問題が一気に浮上します。
また、遊休資産(使用していない固定資産)については、原則として個々の資産を独立してグルーピングします。こちらは別途、時価評価による減損判定が必要になります。
4.回収可能価額の測定――実務対応の実際
減損を認識すべきと判断されたら、次は回収可能価額の算定です。回収可能価額は「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方です。
(1)正味売却価額の算定
正味売却価額は「時価から処分コストを差し引いたもの」ですが、これを実際に算定するのは容易ではありません。
実務では、資産の種類に応じて以下のような方法が使われます。
資産種類 | 実務上の算定方法(例) |
土地(取得後間もないもの) | 取得価格に路線価の増減率(直近路線価÷取得時路線価)を乗じる |
土地・堅牢な建物 | 簡易鑑定または不動産鑑定評価 |
工場・特殊建物 | 簡易鑑定。過去の資本的支出の実績パターンを参考に残存価値を判断する方法もあるが、資産の種類・使用状況によって異なるため個別に検討が必要 |
機械装置 | 正味売却価額の客観的算定が最も難しい資産。業者見積もりや鑑定が理想だが規模が大きい場合は現実的でないことも多い。実務上の代替手法として、取得後間もないものは簿価、加重平均残存期間を超えたものは1円とする保守的な方法が採られたケースもある |
「全資産を正式な外部鑑定に出さなければならないのか」という疑問は、担当者として最初に直面する壁です。答えは必ずしもそうではありません。重要性・合理性のバランスを取りながら、簡易な方法を組み合わせることが実務的な現実です。監査法人との事前協議で、算定方法の妥当性を確認しておくことをお勧めします。
特に機械装置については、不動産と異なり客観的な市場価格の参照が難しく、算定方法の選択が悩ましい資産です。業者見積もりや動産鑑定評価人による鑑定が最も客観性を確保できますが、対象規模が大きい場合は費用・期間の両面で現実的でないこともあります。一方で、減損損失を小さく見せようとしていると受け取られかねない楽観的な評価額も問題です。「保守的だが過度にならない」という方針のもと、監査法人と丁寧に協議しながら落とし所を見つけることが求められます。なお、近年は監査法人側でもコスト・アプローチのみでは不十分とする姿勢が強まっており、重要性の高い動産については専門の鑑定評価人によるマーケット・アプローチが求められるケースが増えています。
(2)使用価値の算定
使用価値は、その資産グループが将来生み出すキャッシュフローを割引率で現在価値に換算したものです。
ここで経理担当者が必ずぶつかる壁があります。
使用価値の算定に使う将来キャッシュフローは、「会社の意思決定機関において承認された事業計画」に基づかなければなりません。
これは、経理部門が単独で数字を作れないことを意味します。経営企画・事業部門と連携し、中期経営計画をベースに将来CFを組み立て、経営会議などで承認を得る必要があります。計画期間(例:3年)を超える部分については、最終年度の数値を横倒しにする方法が実務上の対応の一つとして採られることがありますが、適用指針では「合理的な仮定に基づく」ことが求められており、機械的な適用が常に認められるわけではありません。内容の合理性と監査法人との確認が前提となります。
割引率については、加重平均資本コスト(WACC)を使用するのが実務上の標準です。上場企業であれば、CAPMを用いてベータ値を反映したWACCを算出します。事業ごとのリスクが大きく異なる場合には事業別・国別に設定する論点もありますが、全社単一のWACCを採用するケースも多く見られます。上場企業でない場合は、自社の借入金利等を参考に設定するケースもあります。いずれも監査法人との事前確認が重要です。
5.経営者の視点――減損は「経営の意思表明」
経理担当者にとって減損は複雑な会計処理ですが、経営者にとってはどういう意味を持つのでしょうか。
かつて筆者が関わった企業での話です。大きな経営環境の変化に直面したとき、当時の経営トップは「出せる膿はすべて出せ」という方針を示しました。将来に持ち越すべきでない損失を、自分の在任中にきちんと計上して清算する。後任者に負の遺産を引き継がせないための、経営としての意思決定です。
減損損失は、翌期以降の減価償却費を減少させます。大きな減損を計上した翌期以降は、損益が改善しやすくなる。この効果も含めて、減損処理は単なる会計的な数字の調整ではなく、経営の方向性を示すメッセージになりえます。
経営者が減損を「会計の話」として経理に丸投げするのではなく、自社の資産の収益力を見直す機会として捉えること。そのためには、事業計画の策定・承認プロセスへの関与が不可欠であり、それは減損会計が経営者を巻き込む構造になっているからでもあります。
6.現場でよくある誤解
最後に、現場でよく出る質問・誤解を整理しておきます。
よくある誤解・質問 | 正しい理解 |
減損した資産は使ってはいけないのか? | そんなことはありません。帳簿価額の修正であり、引き続き使用できます |
減損したら廃棄しなければならないのか? | 廃棄の要否は経営判断であり、減損とは別の話です |
減損すると翌年の利益も悪化するのか? | 逆です。帳簿価額が下がるため減価償却費が減り、翌期以降の損益は改善しやすくなります |
減損損失は税務上も損金になるのか? | 原則として税務上は損金算入されません(税効果会計の対象となります)。ただし、法人税法上の評価損の要件を満たす場合は損金算入が認められるケースもあり、個別に検討が必要です |
おわりに
減損会計は、基準書を読むだけでは実務の全体像がつかみにくい分野です。グルーピングの設定、回収可能価額の算定方法、事業計画のオーソライズ、監査法人との協議——それぞれのステップで、経理担当者は様々な判断を迫られます。
この記事を読んで「なるほど、ではやってみよう」と思っていただけたなら、それが一番です。自分たちで取り組める方はぜひ記事を参考に実践してみてください。もし「理屈はわかるが、どこから手をつければいいかわからない」「監査法人との協議をどう進めるか相談したい」という状況であれば、そのときはお声がけください。伴走する形でお手伝いします。
木村公認会計士事務所 木村 仁
コメント