内部監査の「担い手」はどこにいるのか――逆ピラミッド組織と、儲からない部門というジレンマ
はじめに
内部監査の担い手不足は、比較的規模の小さい上場企業でも、中小企業でも、程度の差こそあれ共通して抱えている問題だと感じています。内部監査は会社の規模にかかわらず必要な機能ですが、そこに人を割ける会社は多くありません。
今回は、銀行員時代・その後の企業内会計士としての経験から見えてきた、内部監査の人員資源が置かれている構造的な事情と、その中でも実際に機能させるための工夫についてお伝えします。
1.銀行や大企業で見てきた「配置換え」としての内部監査
銀行にいた頃、支店長を経験した人が、次の出向先や異動先が決まるまでの間、検査部門に籍を置いて臨店検査を担当するという光景をよく目にしました。ポストが空くのを待つ間の「つなぎ」的な配置ではありましたが、支店運営を実際に経験してきた人が検査に入ることには合理性がありました。現場のどこに無理が生じやすいか、どこを見れば実態がわかるかを、経験的に把握しているからです。
大企業でも同様の傾向があります。マネジャー層が本来の業務と内部監査を兼務したり、ベテラン層を内部監査部門に配属したりする例は珍しくありません。これらの背景には、中高年層の人員が組織内で相対的に「余っている」という事情があるのではないかと見ています。
2.人員構成の逆ピラミッドと、内部監査という部門の位置づけ
比較的規模の小さい企業でも、人員構成が逆ピラミッド型になっている点は大企業と変わりません。中高年層や定年後の再雇用者も、人手不足の中でむしろ貴重な戦力として現場で活用されているのが実情です。
一方で、内部監査は誰にでもできる仕事ではありません。当該会社の業務に精通していることが望ましく、そうした人材ほど現場が手放したがらないという事情もあります。内部監査に向いている人材と、現場が手放せない人材は、実は同じ層に重なっていることが多いのです。
経営層の立場から見ると、内部監査は直接的に利益を生む部門ではなく、必要最小限の体制で効果的に運営したいという発想になりがちです。しかし、ひとたび問題が発生すれば、会社の信用や財務に大きなダメージを与えかねません。この「普段は小さく、いざというときは大きい」というリスクの性質が、経営層にとって内部監査への力の入れ具合を難しくしている一因だと感じています。
内部監査という機能そのものへの注目が本格的に高まったのは、日本ではここ10年ほどのことだと言われています。経験を積んだ内部監査人の絶対数がそもそも少ないという事情も、担い手不足の背景にあると考えられます。
3.打ち手①:兼務と臨時動員という発想
こうした事情を踏まえると、内部監査の専任者を潤沢に確保するという発想よりも、既存の人員資源を必要なタイミングで集める仕組みを作るほうが、現実的な打ち手になります。
具体的には、業務監査の計画を立てる段階で、当該業務に詳しいベテラン層に一時的に加わってもらうこと、監査の実施段階でも要員として手伝ってもらうことです。経理部門でも、決算や連結決算の時期には他部門から一時的に応援を募ることがありますが、これと同じ発想です。恒常的な専任体制でなくても、必要な局面で人を集められる仕組みにしておけば、内部監査は十分に機能します。
ただし、兼務者を監査に活用する場合には、客観性を損なわない配慮が欠かせません。具体的には、兼務者が普段所属している部署については、その人自身には監査を担当させないという線引きです。自分の持ち場を自分で監査する形になってしまうと、内部監査に求められる客観性が保てなくなります。
4.打ち手②:外部専門家を「部分的に」使うという発想
外部専門家の活用も有効な手段ですが、全面的に丸投げしてしまうと、かえって非効率になりがちです。その会社の業務実態を知らない外部者だけに任せると、形式的な監査にとどまりやすいためです。
有効なのは、部分的に関わってもらう形です。監査計画を立てる際に、今トレンドになっている論点や有効な監査手法を教えてもらう、実際の監査実施の一部を担ってもらう、調書のまとめ方や重要性の判断基準、是正勧告の出し方、フォローアップの方法など、他社での実務例を参考として共有してもらう、といった関わり方です。自社に不足している部分だけを補ってもらうという発想で使うと、費用対効果も含めて機能しやすくなります。
外部専門家の使い方にも、機能しやすいパターンとそうでないパターンがあります。目的を明確にしたうえで専門知見を借りる、海外拠点やITなど自社に知見が乏しい領域を切り出して依頼する、といった使い方は効果が出やすい一方、ほぼ丸投げにしてしまう、漠然と「何とかしてくれるだろう」という姿勢で依頼する、自社の業務内容まで先方が把握してくれることを前提にする、といった使い方は、コストばかりかかって実効性が伴わない結果になりがちです。
依頼先を選ぶ際にも注意が必要です。J-SOXの評価対応だけを経験してきたコンサルティングファームや会計士が、その経験だけを根拠に内部監査全般に対応可能だと説明してくるケースもあります。財務諸表監査の視点にとどまらず、幅広い業務監査の経験を持っているかどうかを、依頼前に確認しておくと安心です。
5.打ち手③:チェックリスト化した相互監査という発想
監査の実施方法そのものを工夫する余地もあります。チェックリストを整備した上で、自己監査にならない範囲で、部門間やグループ会社間で相互に監査を実施してもらい、その結果を内部監査部門が確認し、サンプリングや追加手続きを行うという、現場参加型のやり方です。
この方法には、監査の実務負担を内部監査部門だけに集中させないという効果に加えて、監査に関わった現場同士で業務への相互理解が進むという副次的な効果も期待できます。内部監査を「一部の専任者だけの仕事」から「組織全体で支える仕組み」に近づけていく発想と言えます。
ここで注意したいのは、このチェックリストによる相互監査を、毎年すべての部門・グループ会社に画一的に当てはめてしまうと、かえって「毎年同じことをやっているだけ」という形骸化を招きかねない点です。どこにリスクが高いかを見極めたうえで対象範囲を絞り込みながら運用することが、この方法を機能させる前提になります。
おわりに
内部監査の担い手不足は、単純に人を増やせば解決する問題ではなく、逆ピラミッド型の人員構成と、内部監査という部門の位置づけそのものに根差した構造的な問題だと感じています。だからこそ、専任者を無理に確保しようとするのではなく、兼務・臨時動員、外部専門家の部分的な活用、チェックリスト化した相互監査といった、既存の資源を組み合わせて機能させる発想の転換が有効になります。いずれの打ち手も、客観性やリスクの所在への目配りを欠くと形だけのものになりかねない点は、あわせて意識しておきたいところです。
自社の内部監査体制について、「今のやり方で本当に機能しているか」を一度振り返っていただくきっかけになれば幸いです。もし「体制を見直したいが、何から手をつければよいかわからない」という状況であれば、そのときはお声がけください。伴走する形でお手伝いします。
木村公認会計士事務所 木村 仁

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