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木村公認会計士事務所

万年赤字の親会社が、国際税務の「課」を育てなおした理由――専門家との橋渡し役という立ち位置

執筆者の写真: 仁 木村
仁 木村
8月31日
読了時間: 7分

はじめに

このシリーズでは、海外進出の各段階で顕在化したPE認定リスクと移転価格税制の論点を、5つのケースを通じてお伝えしてきました。出張所の役割変質(第1回)、限定的リスク事業者の赤字(第2回)、調整金の方向転換(第3回)、バイセル化後の損益シェアを巡る対立(第4回)、税務上の対価と管理会計の分離(第5回)。最終回となる今回は、これらの技術的な論点そのものではなく、これまでとは別の企業のケースを通じて、こうした論点を継続的に発見し、是正していく「体制」をどう作ったかについてお伝えします。

本シリーズは実際の複数の案件で見えてきたパターンを一般化・匿名化してご紹介するものです。


1.背景:関心の薄さという構造的な問題

このケースでの日本の親会社は、長年にわたって赤字が続いている会社でした。かつては海外子会社との取引を専門に扱う国際税務の担当機能もあったのですが、業績が芳しくない状態が続くなかで、「個々の取引をそこまで細かく見張る必要はない」という受け止め方が社内に定着していきました。実際、この会社には、国際税務に詳しい人材がほとんど社内にいない状態になっていました。

海外子会社との窓口として最後まで残っていたのは、子会社管理を担う課でした。人員が増強されないまま、国際税務に長く携わってきたベテランの退職が重なり、過去のルールがなぜそう定められたのか、どのような業務上の背景があったのかという経緯が記録として残らないまま、機能そのものが徐々に損なわれていきました。加えて、人数が少ないにもかかわらず、海外子会社に関することであれば何でもこの課に集まってくる状態で、本来は法務やシステムなど、社内に専門組織が存在する領域の話まで、まとめて抱え込んでいたことも、この機能の空洞化に拍車をかけていました。

転機となったのは、経営体制や事業環境の変化を経て、この会社の業績がようやく黒字に転じたタイミングでした。第3回・第4回でご紹介した、業績や調整金の向きが反転した瞬間に、それまで潜んでいたたてつけと実態のズレが表面化するという構図は、この親会社自身にも当てはまりました。それまで見過ごされてきた、駐在員事務所の役割が本来の範囲を超えて広がっていたり、調整金のやり取りが一方向のまま固定化されていたりといった、契約や制度上のたてつけと実態のズレが、堰を切ったように次々と表面化してきたのです。ところが、いざ対応しようにも、社内に国際税務に詳しい人材はほとんど残っておらず、なぜそのような取り決めになっていたのかという経緯を知る者もいませんでした。個別に取り繕うことはできても、根本原因まで遡って解決に動ける人は、社内に誰もいない状態だったのです。


2.展開:外部専門家の活用と、橋渡し役としての伴走

この状況に対して取った対応は、外部の専門家を活用しながら、この会社の支援にあたっていた私自身が、社内と専門家の間に入って橋渡し役を担うというものでした。具体的には、既存の子会社管理を担当していた課を巻き込みながら、国際税務対応を、その課の正式な業務として少しずつ根付かせていくアプローチを取りました。ゼロから新しい組織を作るのではなく、既存の組織に業務を統合していく形です。

あわせて行ったのが、業務の棚卸しでした。これまでその課が一手に抱え込んでいた海外子会社関連の業務のうち、法務やシステムなど、本来は社内の専門組織が担うべき領域は、それぞれの専門部署に業務分掌し直しました。餅は餅屋という考え方です。

このとき、あわせて見直したのが経理財務部門との関係でした。子会社管理課がそれまで扱っていたのは、あくまで海外子会社側の予算と実績の管理にとどまっていました。しかし国際税務の観点で移転価格の水準などを継続的に点検するには、子会社側だけでなく、本社側の事業損益や、海外子会社別に見た取引の予算・実績の情報も欠かせません。国際税務の実務については経理財務部門とも連携し、必要な数字を継続的に確認できる体制を新たに組み込みました。

その上で、国際税務については、その課が中心となって専門性を蓄積していく体制に絞り込みました。ちょうど、新しい業務や専門的な知見が得られる仕事に関心を持つやる気あふれる若手メンバーがいたこともあり、国際税務対応の定着は、単なる体制整備にとどまらず、能力開発の機会としても位置づけることができました。

私自身は公認会計士であり、税理士登録はしていません。この立場でできることは、個別具体的な税務判断そのものを下すことではなく、一般的なリスクの整理と、社内の実務担当者・経営層と、外部の国際税務専門家との間の橋渡しに徹することでした。第1回でお断りしたとおり、このシリーズを通じて一貫させてきたスタンスです。


3.技術的・組織的な論点:なぜ既存組織への統合が有効だったか

業績不振による関心の薄さは、単に「その年の税務対応が手薄になる」というだけの問題にとどまりません。リスク管理体制そのものが構造的に手薄になり、加えてベテランの退職でルール設定の経緯までもが失われていくと、契約や取引の実態が徐々にズレていっても、それに気づく機能が社内に残らなくなります。日常的にリスクをモニタリングする担当機能が存在しない状態は、まさにこうした事態が起こりやすい土壌でした。

ゼロから新しい国際税務専門の組織を作ろうとすると、人員の確保や社内的な位置づけの調整に時間がかかり、長年の赤字体質から抜け出したばかりの会社では、なおさら実現のハードルが高くなります。これに対して、すでに存在していた子会社管理の課を巻き込みながら、国際税務対応を段階的にその業務範囲に組み込んでいくアプローチには、実務上のメリットがありました。既存の業務フローの中に自然に組み込めること、すでに海外子会社との日常的な接点を持つ担当者が、そのままリスクの一次的な気づきの役割を担えるようになることです。

外部専門家の知見は、個別の技術的な論点(PE該当性の判断、移転価格文書の作成など)を都度確認するために不可欠ですが、それだけでは、日常的なリスクの察知にはつながりません。既存の子会社管理課に、外部専門家の知見を「翻訳」し、日常業務の中でリスクの兆候に気づける機能を担わせたこと、そして経理財務部門と連携し、必要な数字を継続的に確認できる体制を組み込んだことが、このケースで整備できた体制の実質的な内容でした。


4.締めくくり:制度上のたてつけと実態のズレを、継続的に発見する仕組み

第1回から第5回でご紹介してきた技術的な失敗パターン――駐在員事務所の役割変質、コミッション料率設定の恒常的な過小設定、調整金の設計の固定化など――は、いずれも、契約や移転価格ポリシーといった「制度上のたてつけ」と、実際の機能・リスクの配分や社内の力学といった「実態」がズレたときに、リスクとして表面化したものでした。このケースの親会社が黒字転換を機に直面したのも、まさにこの種のズレが積み重なった結果でした。厄介なのは、このズレは一度是正すれば終わりというものではなく、事業環境の変化や組織の変遷とともに、繰り返し生じ得るという点です。

だからこそ必要だったのは、噴出した個別の問題をそのつど外部専門家に頼んで火消しすることではなく、日頃からそれに気づき、責任を持って全体を管理できる体制を、社内に据えることでした。万年赤字だったこの親会社が、国際税務の課を育てなおすことにこだわった理由も、まさにここにあります。過去の経緯を誰も語れず、対応の糸口すら見えなかったあの状況を、二度と繰り返さないためです。


おわりに

全6回にわたり、海外進出のさまざまな段階で見えてきた国際税務上の論点を、ケースごとにご紹介してきました。いずれも別々の企業で起きた話ですが、契約書や制度の建て付けそのものではなく、実際の活動実態・機能・リスクの配分がどうなっているかによって、リスクの有無が判断されるという点で共通していました。海外拠点の運営に携わる方にとって、自社の体制を振り返る一つのきっかけになれば幸いです。

本シリーズでご紹介した内容は一般的な論点整理にとどまるものであり、個別の事案に対する具体的な税務判断は、登録税理士・国際税務専門家にご確認いただくことを前提としています。もし「自社の体制や個別の取引について、専門家と一緒に整理したい」という状況であれば、そのときはお声がけください。伴走する形でお手伝いします。


木村公認会計士事務所 木村 仁

 
 
 

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