内製化の行き過ぎが会社を揺るがす――固定費拡大の罠と外注バランスの重要性
- 仁 木村
- 5月25日
- 読了時間: 6分
はじめに
前回の記事では、「自社製造は高い」という誤解から外注化が進み、操業度の低下と配賦率の悪循環によって赤字が深刻化した事例をお伝えしました。
その会社は売上規模が100億円前後の製造業でした。外注化が進む中で製造間接費の配賦率が上昇し続け、損益分岐点は110億円程度にまで膨らんでいました。売上100億円に対して損益分岐点が110億円であれば、普通に経営していても赤字になります。そこにコロナ禍が直撃し、売上はさらに落ち込みました。
その状況を打開したのが内製化の推進です。止まっていた設備投資を再開し、製造間接費を有効活用する形で社内でできることを内製に戻す。固定費の使い方を変えることで損益分岐点を90億円程度まで引き下げることができました。売上がコロナ禍から回復し90億円を超えたタイミングで、黒字化を実現することができました。
ところが、その後に新たな問題が生じました。
「内製化で黒字になった」という成功体験が組織に広がった結果、今度は内製化しすぎという状況に陥ったのです。
1.成功体験が生んだ「100%内製化」の風潮
内製化推進による黒字化は、現場にとって大きな自信になりました。それ自体は良いことです。しかし組織というものは、成功したやり方を絶対化しやすい性質があります。
気づけば社内に「できることはすべて内製でやるべき」という風潮が生まれていました。
その結果、現場からこんな声が次々と上がるようになりました。
・ 「資材の倉庫が足りない」
・ 「製造スペースが足りない」
・ 「人が足りない」
設備投資の要望、採用の要望、スペース拡張の要望。いずれも固定費の増加を伴うものです。
2.固定費拡大の本質的なリスク――「当然の固定費増」と「危険な固定費増」
黒字化が実現し、売上が回復してきたとき、経営者が真っ先に考えるべきことがあります。
赤字時代に抑え続けてきた給与や賞与を元に戻すことです。長年にわたる業績不振の中で、社員の給与水準は据え置かれ、賞与は削られていました。黒字化した以上、その分を社員に還元するのは経営者の務めです。これは固定費の増加ではありますが、組織への責任を果たす正当な判断です。
問題はその先です。
「内製化で勝てる」という確信が強まるにつれ、設備投資・採用・スペース拡張の要望が止まらなくなりました。固定費は、売上が下がっても減りません。損益分岐点を90億円まで引き下げて黒字化できたのに、今度は内製化のための固定費増によって損益分岐点が再び上昇し始める。黒字化の果実が、次のリスクの種になっていたのです。
この構図が最も危険な形で露わになるのが、外部環境の急変です。コロナ禍のような売上急落がふたたび起きたとき、積み上がった固定費はそのまま損失として残ります。
3.固定費拡大に慎重であるべき理由
製造業において固定費を増やす判断、すなわち設備投資・正社員採用・工場スペースの拡大は、以下の条件が揃ったときに初めて合理的です。
1. 需要が中長期にわたって安定・継続することが合理的に見込める 「今、忙しい」は理由にならない。景気サイクルや顧客動向を踏まえた中長期の需要見通しが必要です。
2. 増加する固定費を、正常操業度の範囲内で十分に回収できる 固定費は「フル操業」ではなく「通常の操業水準」で回収できて初めて健全です。
3. 対象工程が自社の競争力の源泉となる中核工程である 技術・品質・ノウハウの蓄積が自社の優位性につながる工程かどうかを見極める必要があります。
4. 急な需要変動のリスクが許容範囲内に収まる 固定費を増やした後に売上が急落した場合の損失シナリオを事前に試算しておくことが不可欠です。
「今、仕事が多い」という理由だけで固定費を増やすのは危険です。仕事の増減を吸収するバッファとして外注を活用することが、製造業の経営安定には不可欠です。
4.外注は「コスト削減手段」ではなく「リスク管理手段」
多くの経営者は外注を「自社より安くできるから使う」というコスト削減の文脈で捉えています。しかし本来の外注の役割はそれだけではありません。
外注は、売上の増減リスクを固定費化せずに吸収するための手段です。
売上が増えたときは外注を増やして対応し、売上が落ちたときは外注を減らして固定費を守る。この柔軟性が、製造業の経営安定の根幹です。
5.「普段から使っていない外注先は、いざというとき使えない」
急に売上が増えたとき、「では外注に出そう」と思っても、信頼できる外注先はすぐには見つかりません。
外注先との関係は、日常的な取引の積み重ねの中で育つものです。品質・納期・コミュニケーションの実績があってこそ、急な増産要請にも対応してもらえるようになります。
普段から外注をまったく使っていない会社は、いざというときに頼れる外注先がいない状態に陥ります。一定程度の外注取引は、コスト面だけでなく「外注先との関係維持」という観点からも継続すべきです。
6.内製化と外注化の適切なバランス
内製化すべき領域
・ 自社の競争力の源泉となる中核工程
・ 品質・技術・ノウハウを守るべき工程
・ 固定費(設備・人員)を正常操業度で十分に回収できる工程
外注を活用すべき領域
・ 売上の増減に応じて柔軟に量を調整すべき工程
・ 固定費を増やすほどの安定需要が見込めない工程
・ 外注先に技術・設備面での優位性がある工程
そして最も大切なのは、この境界線を定期的に見直すことです。売上水準、技術環境、外注市場の状況は変化します。一度決めた内製・外注の比率を固定化せず、経営環境の変化に合わせて柔軟に再設計する姿勢が求められます。
おわりに
今回の2本の記事を通じてお伝えしたかったことは、「内製化が正しい」でも「外注化が正しい」でもなく、コスト構造と経営リスクを正確に理解したうえで、状況に応じて使い分けることが重要だということです。
黒字化後に抑制していた給与・賞与を社員に還元するのは当然の経営判断です。しかし、内製化の成功体験に引きずられて設備・人員・スペースへの固定費を無尽蔵に積み上げていくことは、また別のリスクを招きます。
成功体験は組織を強くしますが、同時に思考を固定化させるリスクもあります。製造業の経営において、固定費の拡大には常に慎重であってください。
この記事を読んで「なるほど、ではやってみよう」と思っていただけたなら、それが一番です。自分たちで取り組める方は、ぜひそのまま実践してください。もし「理屈はわかるが、社内にやれる人間がいない」「一緒に考えてほしい」という状況であれば、そのときはお声がけください。伴走する形でお手伝いします。
木村公認会計士事務所 木村 仁

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